クリニックやオフィスで見つけた、ほんとうの心地よさ
ふと立ち寄った場所で、なぜか呼吸が深くなる。 そんな経験、ありませんか。 その正体はたぶん、「木」です。
木がある場所では、時間の流れ方が違う
病院の待合室は、白い壁に蛍光灯にビニールの椅子——というのが、ちょっと前までの定番でした。
ところが最近、「あれ、ここ病院だっけ?」と思うような場所が増えています。待合室に一歩入った瞬間、木の香りがふわっと鼻に届いて、肩の力がすとんと抜ける。カフェにいるような、友だちの家に招かれたような、不思議なリラックス感。
クリニック、オフィス、図書館。わたしたちの身近にある「木の空間」を、いくつか訪ねてみました。
ひのきの森が屋根になった図書館
岐阜県にある「みんなの森 ぎふメディアコスモス」。
建築家・伊東豊雄さんが設計した、ちょっとすごい図書館です。
2階に上がって天井を見上げると、東濃ひのきの薄板を何層にも編み込んだ、波打つような格子屋根が広がっています。しかもこれ、特別な加工をしていない。ひのきのしなやかさだけで、あの曲面が生まれているんです。
天井から吊り下げられた半透明の大きな傘——「グローブ」と呼ばれる照明兼換気装置が、自然光をやわらかく拡散して、館内はほんのり薄暗い。蛍光灯のギラギラした明るさとは正反対の、まるで木漏れ日のような光。
ここでは「静かにしなさい」とは言われません。「子どもの声は未来の声」がこの場所のモットー。少しざわざわしているのに、不思議と集中できる。そして天井のひのきから漂う、かすかな森の香り。
月に10万人が訪れるのも、納得です。
日本橋に「森をつくる」18階建てオフィスう
木造のオフィスビル」と聞くと、山小屋のようなものを想像するかもしれません。でも今、日本橋の真ん中で、高さ84m・地上18階建ての木造オフィスビルが建設中です。
三井不動産の「日本橋本町三井ビルディング &forest」。北海道にある自社保有林(東京ドーム約1,063個分)の木材を構造材に使い、エントランスの壁も、オフィスの天井も、至るところで木の構造が「見える」設計。
コンセプトは「日本橋に森をつくる」。働きながら木に触れ、香りを感じられるオフィス——つまり、毎日の仕事場が「森呼吸」できる場所になる。
2026年の竣工後は、国内最大・最高層の木造ビルとなる予定です。
「気づいたら、デスクを撫でていた」
もう少し身近な話もあります。
国産木材を使ったオフィス家具ブランド「キイノクス」を導入した企業では、こんなエピソードが生まれているそうです。
「切羽詰まった電話をしていたとき、気づいたら無意識にデスクの天板を撫でていた」
木のワークブース「WOOBO」に入ると「深呼吸したくなる」という声もあるそうで、これ、すごく分かる気がします。どんなにおしゃれなオフィスでも、仕事中に深呼吸したくなるのって、普通は外に出たときくらいですよね。
オフィスの中にいながら、思わず深く息を吸いたくなる。それは、木だけが作れる空気感なのかもしれません。
木の空間で、脳に何が起きているのか
なぜ、わたしたちは木のある場所でこんなにリラックスできるのでしょうか。
千葉大学の研究チームの実験によると、木材に触れたとき、リラックスを司る副交感神経が活性化し、ストレス時に働く前頭前野の活動が鎮まることがわかっています。
つまり、木に触れるだけで、脳が「ここは安心できる場所だ」と判断するということ。何万年も森と共に生きてきたわたしたちのDNAに、その記憶が刻まれているのかもしれません。
しかも木材には、部屋の湿度をやんわり調整する「調湿作用」や、光のギラつきを抑える効果もあります。あの「なんとなく心地いい」の正体は、かなり科学的なものなんです。
あなたが心地よい場所は、森を守っている場所
ぎふメディアコスモスの東濃ひのき。
三井不動産の北海道の保有林。
キイノクスの国産材の家具。
気づきましたか? これらの「心地いい空間」に共通しているのは、使われている木の「出身地」がはっきりしていること。その土地の木が使われることで、地域の山に手が入り、放置されていた森に光が差し込みます。
自分が深呼吸しているその場所が、実は日本のどこかの森を健やかにしている。そう知るだけで、同じ空間がちょっとだけ誇らしく見えてきませんか。
まずは、お気に入りの「木の場所」を見つけてみる
特別なことはいりません。
近くのカフェ、行きつけの美容室、子どもの通う園。「あ、ここ気持ちいいな」と感じる場所があったら、ちょっとだけ天井や壁、テーブルの素材を見てみてください。

